神 輿
安田裕次郎 山本国男 田沢慎也 松下義一 佐藤寛之 一柳竜太
1. はじめに
「神輿作りたくない?」リーダー安田君のそんな一言から始まった神輿制作という未知の世界。しかしそれは我々にとって無関係なものではなく、派手な外見からは見えない神輿の本質的な部分でカレッジで学んだ技術と関わっていた。
この予稿では我々が作りたい神輿とはどんな神輿なのかに焦点を当てたいと思う。
2.「神輿」の目的・・・なぜ神輿なのか?
人を感動させる建築とは何か?なぜ神輿を見ると人は興奮したり、わくわくした気持ちになったりするのだろうか?神輿の何が人を感動させるのか?
神輿の中には、社寺建築の技術が多く使われている。もともと神輿は神様を祭る「建築」であり、社寺のミニチュア模型ではなく、社寺建築そのものであると言っても過言ではない。
神輿は大きさに制限がない。巾75センチほどの子供神輿も神輿であることに変わりはなく、スケールに関わらず、すべての神輿はそれが「原寸大」である。
我々神輿班は、人を感動させることができる、人をひきつけることができる「本物の建築」を創ってみたい。それが神輿を創る最も大きな目的である。
3.「木組みは人組み」
西岡棟梁の名言である。我々にもその本質が少しでも体験できないだろうか?神輿を作り上げ、最後にみんなで担いで喜びを分かち合えたとき、「木組みは人組み」の意味を感じることができるのではないか?限られたメンバーのチームワーク無くして、神輿を作り上げることはできない。個性あふれるメンバー一人ひとりの長所を活かせるような、また一人ひとりが主体的に作業に参加できるような組織づくりも、神輿製作の大きな目的である。
4.オリジナリティーの追求
我々神輿班は藤間先生のご指導を受けている。5期生の神輿同様、原寸図は藤間先生に9期生バージョンとして作っていただいた。立面図、隅木展開図、蕨手原寸図である。
では、我々のオリジナリティーはどこにあるのか。5期生の神輿の焼き直しになってしまっては、9期生の個性が表現できない。しかし、オリジナリティーの追求は必ずしもデザインに現れるものではないのではないか。
9期生神輿のオリジナリティーは表には出ない、納まりの中にこそ追求したい。藤間先生の原寸図だけでは、神輿を作り上げることはできない。一つひとつのパーツの納まり、例えば柱が台輪にどのように納まっているのかなどは、すべて我々が自分で考えるのである。
9期版神輿の目指す神輿は、接着剤や金物をできる限り使わない神輿である。木を組むことで生まれる強さを追求し、カレッジで学んだ伝統工法を活かしたいと考えている。
5.構造への挑戦
我々の作る神輿は「本物の神輿」である。担いだら壊れてしまうような神輿は作らない。
神輿は強度の問題を無視することはできない。江戸神輿は台輪、胴、組み物、屋根などに分解することができ、中に大きな芯柱を通して、持たせている。例え芯柱が壊れても、それを取り替えれば修復することができるように作られているのである。
修復が可能で、強度のある構造にするには、木組みの技術が不可欠である。
構造への挑戦もまた、神輿製作の目的の一つである。
6.種谷製作所 見学
我々神輿班は神輿の作り方、基本を学びに神輿職人の種谷吉雄氏を訪ねた。ここでは、種谷製作所で我々が感じたこと、学んだことをまとめる。
6-1. 神輿の構造
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種谷氏の説明を受ける |
我々が種谷で学んだことの最も大きな点は、神輿の構造である。
神輿のつくりは地域や作り手によって様々な特徴があるようだが、種谷の神輿は内部に芯柱と骨格となるフレームを持っていることが大きな特徴だった。
神輿は組物や彫刻など、繊細な部材が多く、ダメージを受けやすいと思われがちだが、それらのダメージを直接受けないための工夫がこの内部フレームの構造だと思われる。格子状に組まれたフレームの4本の柱は上部が屋根の梁に、下部は箱台輪の梁に貫通している。芯柱も同様に上下で梁に差し込まれ、込み栓を打って固定してある。
この構造の長所はダメージに強いというだけではない。屋根、組物、胴体、箱台輪、内部フレーム、芯柱に分解でき、それぞれが独立したつくりになっている。これにより、どれか一部が破損しても、そこだけを交換することができ修理がしやすい。また製作する上では、各パーツに作業を分担することができ効率的である。
また、固定するのではなく組むことが基本となっているので、釘や接着材など一度使うと分解できないようなものを使っていない。このように種谷の神輿は何度でも修復ができるような作り方になっており、カレッジで学ぶ伝統工法の考え方と共通する部分を見つけることができた。
6-2. 社寺と神輿の違い
神輿と社寺建築は構造的に大きな違いがあるのではないか。
それが種谷を見学した我々の共通の意見だった。では具体的に何が異なるのか?
それは組物と柱に荷重がどれだけかかっているかの違いだと考える。
社寺建築では屋根の荷重が直接組物に伝わり、大斗を通して4本の柱に到達している。つまり、屋根の荷重を組物と柱で受けている。一方、神輿は屋根の荷重を、梁を通して芯柱と内部フレームに伝えているため、外見から見える組物と柱はほとんど荷重を受けていないことになる。
神輿は外見から見れば社寺のような形をしているが、実際は内部フレームを隠し持っていて、担ぐ衝撃に強い構造を追求したものになっている。つまり「建築物」というよりは「担がれることを目的とした構造体」である。
6-3. メンバーの感想
@種谷製作所を見学してもっとも印象的だったことは?
A自分たちはどんな神輿を作りたいか?
安田
@まず作り方について自分の想像とはまるで違った所。
意外とシンプルだと思った。種谷さんの人柄が良った。
A正直、初めて作る物だから具体的なデザインは無い、ただ自分が思うに、カレッジに来て出逢えた仲間との継りが一番大きい収穫だと思うのでそれをいかせる神輿!!言葉にすると難しいが・・・
山本
@第一に構造。特に神輿内部にフレームを持ち、外部の胴体、組物などに担いだ時の衝撃やゆがみが伝わらないように工夫されていたところは印象的だった。
第二に修復がしやすいようにほとんどの部分が木組みによってできていたこと。屋根、胴体、組物、台輪、内部フレームに分解することができ、込み栓によって上下で引っ張っているつくりは、職人の知恵と心意気を感じた。神輿の外見からはわからない、本質的な「かっこよさ」をそこに感じた。
A一度目に入ったら、素通りすることができないようなものを作りたい。
木組みの技術、大工の知恵、心意気が伝わるような神輿を作りたい。
田沢
@小さいながらも構造のよく分かるものだった。神輿は置物としてのものではなく、担ぐという事が前提にあり、頑丈な作りになっている。そして破損にも対応出来るように工夫されていて、我々の知る建築とは違う概念によって作られているものであると学ぶことができた。
Aやはり、カッコイイもの。藤間先生の図面に負けず、俺達の神輿を頑丈な構造体、各部所へのこだわり、そして全体のバランスを仲間全員でまとまり作り上げたい。
松下
@作り方(自分の想像とまったく違っていた)
Aかっこよく力強く
佐藤
@小さい神輿が一番だった。
A五期生を超えて学校にずっと残るすごい奴
一柳
@構造の違いがかなり印象に残った。
装飾品関係のきざみかたやくっつけかたを教えてもらってかなりたすかった。
屋根の中の造りが一番印象的かな?
A誰が見てもすごいなとため息がでてしまうようなすごいやつ。技術と時間があればちょっとした彫刻もやってみたいけど・・・最後にみんなで担げるような丈夫な神輿がいい。
![]() 藤間先生 神輿立面図 |
![]() 内部構造体立面図 |
![]() 三手先組物の組立て作業 |
![]() 型板を使い鳥居の反りを墨付け |
まとめ
神輿制作を通じて、我々は「考える」ことを学んでいる。どうすればきれいに正確に刻めるのか。どうすれば構造的な強度を得られるのか。どうすれば接着剤を使わずに木組みの技術を活かせるのか、など。神輿は数多くの部材が組み合わさって一つのカタチになっている。その一つ一つの部材にこだわり、自分たちが納得のいく神輿を作り上げることができた時、職人として、人間として一歩成長することができるのではないだろうか。そんな思いを胸に最後まで一丸となって神輿に挑んでいきたいと思う。
最後に、藤間先生のご指導を受けた最後の研修生として、神輿をなんとか完成させたいと思う。完成した姿をお見せできず本当に残念だが、藤間先生の名に恥じぬようなものを作り上げたい。